ある日、楠木は自然公園を散歩していた。すると噴水広場のほうから子供が水色の自転車で大きく転んだ。
「おおい、僕、大丈夫か?」
緑のTシャツの男の子は鼻をすすりながら立ち上がった。うんともすんとも言わないのだ。
「こっちにおいで…」
楠木は木の下のベンチで血がでてると楠木はハンカチで軽く触れる
「お名前はなんていうのかね?」
「まー君です」
「ふふふ、まー君か…夏休みなのかい?」
「うん」
素直ないい子だな、と楠木は思った。こんなに子供と話したのは何十年ぶりだろう。
話を聞くと、お母さんはあまり家に帰らないらしいのだ。
「男の人を連れてきて、男の人がママのことをダッコするの」
「ふむ…」
楠木は並々ならぬ事情を感じた。
「そうじゃ、スーパーに牛乳を買いにいくのだが、まー君も一緒に行かないか?」
「うん、行きたい おじいちゃんと行きたい」
冷気のする売り場でレジかご一杯に牛乳パックを積む。
「おじいちゃん買いすぎだよ」
「いいんだよ おじいちゃんはお金持ちなんだよ」
自転車の前かごに牛乳を積む。後ろの荷台に乗るまー君。
「まー君、坂道だよ それーっ」
「うわぁい」
岩槻で一番大きな坂を二人でくだった。
「俺が子供の頃、こんなおじいちゃんがいてさ…」
「ふぅん」
「ほんとなんだってば」
穏やかな春の日、デートをするカップルがベンチでふたり牛乳を飲んでいる。
◎選者のコメント
「まー君と楠翁、二人が過ごした時間は短いものでしたが、どちらにとってもかけがえのない一コマになったことでしょう。」
※小さなお話し 引き続き募集中です
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