草刈り機を走らせる畑の先に、ふと愛犬がいるように見えた。
だが小さい。
「子犬か」と思ったが、歩き方が違う。エンジンを止めて目を凝らしたとき、胸の奥に確信が走った。
――これは狐だ。
その瞬間、狐は藪へと消えた。置き去りにされたような静けさの中、しばらくするとまた一匹が姿を見せる。
今度こそとスマホを構えるが、焦りのあまりスイッチを入れ忘れていた。
間抜けな自分を苦笑しつつ作業を続けていると、不意にもう一度、藪の奥に影が浮かんだ。
先ほどより大きな一匹。
毛並みは土で乱れていたが、目だけは澄み、まっすぐにこちらを見つめている。
畑のざわめきが消え、ただその視線だけが空気を支配していた。
やっとのことでシャッターを切り、動画も記録に残した。
小さな二匹は子狐、そしてこの大きな一匹は親狐に違いない。
スマホは「アカギツネ」と名を告げた。
岩槻ではタヌキやハクビシンこそ見かけるが、狐など夢にも思わなかった。
友に尋ねても「見たことはない」という返事ばかり。
にもかかわらず、確かに彼らはここにいたのだ。
アカギツネは人里にも忍び込むというが、親子そろって現れた姿は、どこか神秘の色を帯びていた。
草刈りの手を止めた刹那、野の精霊がこの畑を訪ねてきたように思われた。
【眞々田 昭司】
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