戦争の記憶が残る貴重な「いろは加留多」⑧

【そ】

ソーロク・ダワイのマホルカ

- ソーロクとは数の40のこと。百はストという、共産国厳禁のストと皮肉に感ずる。

40は40%で、“僅かな残り”と解釈できる。我われは之を大いに利用した。もっぱらマホルカ(煙草の茎を刻んだもので紙に巻いて吸う)に応用した。警戒兵が収容所長に平然という「ダワイ・ローソク」(40%欲しい)と、吸いかけ煙草を渡す。将校、現場監督、警戒兵や地方人にも声をかけ手を出せば、当たり前のように無言で渡してくれた。

【そ】

ソーロクダワイの平和外交

 ソーロク・ダワイ! 我々日本

人の感覚からは理解できぬ習慣である。この公平感?革命前にもあったのか。ソーロクは数字の40で「それの40%を下さい」と手を出せば誰にでも通用する。 タバコの吸いかけをさりげなく渡す姿には平和があった。もっとも北方領土のソーロクはいただけないが。

 

 

 


【つ】

妻や子供に夢で逢い

- 現役の若い兵は疲労のあと熟睡していたが、転々反側していたのは補充兵である。それは将校とて同じであった。若い兵は父母を夢みていたであろうが、補充兵はそのほかに妻子の身が案じられていたからである。特に根こそぎ動員熟年在満召集兵は、墓場と決めて渡満していたとはいえ、戦禍跡のその墓場に放置した妻子に、手を伸ばし得ないやるせなさと憤りに血を騒がせていた。中国残留孤児問題の悲劇はこの時生まれていた。

 

【つ】

通夜の団子にもぬすっと兵

 犠牲者も最初は棺を作り供え物をし、僧籍のある兵の読経で送ったが、国家財産の木材使用厳禁の命令が出た。炊事班の石綿正之上等兵は饅頭作りの名人といわれた人。なんの材料かわからぬが、いつも心のこもった供え物を作ってくれた。通夜の晩、それを狙った兵もやがて死んで逝った。

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