藤川公成氏がシベリア抑留の様子を『いろは加留多』として、昭和55年1月に記した、新旧2本を同じ頭文字のカルタを新(カラー)、旧(白黒)の対比した形で連載しています。
紙面掲載への経緯は弊紙654と655号で既に掲載されていますので割愛します。
【ぬ】ぬばたまの闇に五燭光
ぬ- 五百人も入った部屋に一つ、ピンポン球の裸電球が動・静脈を見せてチラつく。
闇夜の星である。
これでも灯りがある収容所は上の部だという。
闇との闘いは種々あったが普遍的だったのは白樺の皮である。細くさいて燃やすと一瞬炎を発して、するめのように身をよじって炭になる。
煤がひどく皆黒ん坊になった。
坑内作業者がこっそりカーバイトを持ち帰った。
アセチレン瓦斯の匂いが夜店を思い出せて郷愁をさそった。
ぬすっと将兵私物の総点検
私達は短期間の作業大隊のつもりで、南嶺から思いきり担いで出発した。
ささやかな故郷への土産と考えたが、なんのことはないソ連人の好餌となった。
最初は強奪だ、防備態勢をとると危険物所有検査、という市場とされめぼしい物は殆んど盗られてしまった。
それでも交換品は隠し持った。
留守を狙ってコンボーイ
突然の一方的条約破棄による参戦侵入は、戦いの常として驚くにあたらぬが、友好国ともいうべき中国領土で、当然中国の所有である物質・機械等のみか中国人民の収穫糧穀をも運び去った所業は、どさくさ紛れの空き巣狙いがこの国の得意業なのか。
世界平和の旗手とは自国向けのスローガンか。
この精神は下々に至るまで浸透しているとみえて、留守中の収容所内には彼ら鼠小僧どもが心ゆくまで荒らしまわった。
南京虫と同類だ。
ルール違反はソ連のお家芸
革命をしなければ、どうにもならなかった国である。
一方的に法を制定し一方的に破棄する独裁国だったからであろう。ところがその革命国が同じ道を傍若無人に、得々と歩いているのは民族性なのか。
公平・平和の世界統一という旗印の下で好き勝手に振舞う姿はいよいよ激しくなってきた。
重い足をひきずり国恋坂
入ソ以来九ヵ月近く太陽の存在を忘れた兵たちがいた。
坑内作業者達だ。午前九時過ぎねば未明とならず、午後四時には薄暮となる冬季。彼等は七時に出てゆき六時頃帰所してくる。
彼等にとって原田隊長の命名した「国恋坂」は、暗い氷の坂道であった。露天掘そのたの作業者もこの坂は避けられない。
緩やかな坂の両側は囚人家族の家並みが、ほのかな灯りをみせて郷愁にとらわれ、生きている苦しみに泣く国恋坂であった。
女もヒゲを生やしてる
ソ連のマダムの強大なパワーは銃後を立派に守ったに違いない。
娘時代はほっそりと可愛いいが、既婚婦人は殆んど関取級である。
民族的なものか。独ソ戦で二千万の兵を失ったというから、大半は未亡人かもしれない。
再建には彼女等の力が絶対であろう。
ヒゲの濃い彼女たちに祝福あれ。
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