年が明けると、あっという間に年度末を迎える。別れと新たな出会いの重なる、春がやってくる。この時期になると、私は小学6年の卒業生を担任した当時のさまざまなできごとが蘇える。40数年前の卒業式の日の「最後の授業」の熱い思い出が私の体を温めてくれる。当時の卒業式は、厳粛で格調高く、緊張の中で進行した。卒業生を呼び出す担任の私も、生徒の名前を呼び間違わないように、とばさないように、とちらないように、次に呼ぶ生徒と目を合わせながら慎重に、それでも、柔和な顔を装って進めたものだった。生徒も緊張して右手と右足を同時に出して歩いてしまうといった微笑ましい動作もあった。空気の張り詰めた卒業式も終わり、教室でみんなとの別れとなる「最後の授業」をした。その年は国語の最後の教材であった『ゆずりは』をみんなで朗読することにした。大人は子どもたちにさまざまなものを託すために生き、子どもはそれを引き継いでまた後世に譲る。『ゆずりは』はそんな流れを詩の言葉に込めて、子どもたちの成長を願った応援歌である。私が特に心に響いた一節は、以下のとおりである。
河井酔茗による『ゆずりは』には、以下の一節がある。
こどもたちよこれはゆずりはの木です。このゆずりはは新しい葉ができるといれ代わって古い葉が落ちてしまうのです。こんなに厚い葉こんなに大きい葉でも……無造作に落ちる。新しい葉にいのちを譲って……こどもたちよ……何をほしがらないでもすべてのものが……譲られるのです。太陽のまわるかぎり世のおとうさんおかあさんたちは…みんなおまえたちに譲っていくために、いのちあるもの、よいもの、美しいものを一生懸命に造っています。……鳥のように歌い、花のように笑っている間に気がついてきます。そうしたらこどもたちよ。もう一度ゆずりはの木の下に立ってゆずりはを見るときがくるでしょう。
読み終えた私は「ではこれでお別れね。みなさんが10年後、20年後には、よい社会をつくること、個性を生かしてそれぞれの力を発揮し、なくてはならない人として輝くことを信じて。みなさんの後ろ姿を、ずうーっと、ずうーっと見つめているからね」と言って「最後の授業」を終わりにしようとした。(次回へ続く)
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