今回取り上げるのは「認知症」です。昔は痴呆といいました。俗にはボケとも…。しかしこれは、症状を正確に表していないばかりか、まるで阿呆になってしまったかのような誤解を生むことから、今は「認知症」という病名になっています。認知症といえば物忘れと思われますが、記憶が低下する疾患はいくつもあります。例えば、脳の記憶を司る部分に腫瘍ができる場合、甲状腺の病気やうつ病でも記憶力が低下する場合があります。これらの疾患が原因で記憶力が低下している人は、その治療をすれば、記憶は回復するため、認知症とはいいません。また、物忘れをするようになっても、その場で何かを考えたり感じたりする能力が損なわれるわけではありません。ですから、認知症の初期段階では、たまに会う親戚や友人であれば、病気と気付かないこともあります。一緒に生活している人が「何かおかしい」と気付いていてもです。理由は、脳の複雑に絡み合う神経細胞が、何らかの原因によって働かなくなるからです。代表的な認知症に「アルツハイマー病」があります。アルツハイマー病では、脳の中に本来ならばないたんぱく質がところどころに20年間かけて沈着していく変化があり、神経細胞の連絡に必要なアセチルコリンやドーパミンが減少し、機能不全箇所が広がっていきます。物忘れはありますが、社交性などは長く保たれます。60歳頃に発症する人が多いですが、その芽は40歳頃に生まれていたということになります。物忘れ外来は、まず、記憶力が低下する原因となる他の疾患がないかどうかを調べ、それらがないということを明らかにし、認知症という診断をせざるをえないかどうかを見る専門の診療科です。愛風で認知症の勉強会をしました。たくさんの認知症患者さんを診療している医師が講師を勤めておられましたが、この認知症の専門医を標ぼうしている医師の中にも、認知症の種類を正しく鑑別せず、製薬会社のおすすめどおりの処方をして「どうせ治らないのだから」と、患者さんやそのご家族の困りごとを真剣に受け止めてくれない人がいると嘆いておられました。専門家という肩書きだけでなく、本人や家族の訴えを真剣にきいて受け止め、その症状に合った対応を考えてくれる医師に巡り合えるかどうかが、病を抱えながらの生活に大きく影響します。次回は、その生活について取り上げます。【愛風・久毛】
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