10万。この数字は、もしもこの犬が売られていたらするであろう、値段である。妹が言うには、毛は綿のようだし、行儀もいいし、かわいらしく、素晴らしい犬、ということで、私は犬には詳しくないのだけれど、その小型の犬はプードルらしい。実家で母の世話になっているその犬は、無邪気にその愛嬌を振りまき、妹がいう行儀のよさで母の心を見事に射抜き、健やかに、ぬくぬくと陽だまりのような穏やかさで、過ごしていた。一方私は飼い主を見つけるために、チラシを作り、ビラを作り、張り出し、配り、聞き回り、心当たりがないと言われ、くたくたになっていた。はやく見つかるといいな、と私が頭をなでると「ワン!」と行儀のいい声で犬が足元にすりよる。「え、」と母親が戸惑った声を出して、私の方も「え、」となった。「見つかっちゃったら。うちからいなくなっちゃうじゃない」と困惑されて、私は「そうだよ、そのために探しているんだから」と言った。「せっかくうちに来たのに」と落ち込む母を思いながら、それもこれもこの犬を置いてどこかに行ってしまった飼い主が悪いんだと憤慨して、命を買って飼うということ、命を育てることにどれだけの気合と愛情と見守る人の存在が必要なことかと思い、余計ぐったりした。「いつになったら見つかるやら」カレンダーを見ると、チラシを張り出してから二週間経っていた。【大野弘紀】
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