宙わたる教室

舞台はある定時制高校。やる気を見せない生徒たちに、一人の教師が「火星の夕焼けは青いんです。
実験で再現してみませんか?」と声をかける。
最初は「ウザイ」とか言って相手にしなかった生徒たち。
彼らは年齢も、抱える事情もさまざまに異なるのですが、その心に徐々に火が付き、科学部を結成して火星の重力についての実験を夢中で繰り返すようになります。
やがて彼らが造り上げた「火星の重力を再現する重力可変装置」を使った実験が、「日本地球惑星科学連合大会・高校生の部」で優秀賞を受賞。
この実験装置はJAXAの注目をあび、「はやぶさ2」の基礎実験に科学部として参加するという想定外の事態にまで発展します。
この実話を元に生まれた感動小説「宙わたる教室」が、窪田正孝主演でNHKの連続ドラマとなり、話題となっています。

 ここまでのストーリを聞くと、熱血教師と高校生たちの青春ドラマのようですが、生徒たちの背景はそんなに単純なものではありません。
漢字が読めない男子生徒は、自分でも単純に頭が悪いのだと思い込んでいました。
ところが「ディスクレシア」という知的能力に異常がないにもかかわらず、文字の読み書きに著しい困難を抱える障害であるということがわかります。ある女子生徒はいつも教室に入れず、保健室登校を繰り返していましたが、自立神経のバランスが崩れる起立性障害が原因でした。
「物理が全く理解できない」という外国にルーツを持つ生徒に対し、主人公の教師は「あなたは物理がわからないのではなく、漢字が全然読めていないのです。」と指摘し、小学校の漢字ドリルを手渡します。

主人公の教師が語る火星の話はどれも興味深いのですが、一番心に残ったのが次の話です。
2003年に火星に打ち上げられた火星探査車「オポチュニティ」は、当初想定された90日間の稼働期間を大幅に超え、2018年まで火星での調査活動を続けました。
最後に通信が途絶え、いよいよミッション終了の信号を送る時、NASAのスタッフはオポチュニティに「15年間の任務ご苦労様」と告げ、全員が泣いていたそうです。

 寡黙な教師役の窪田正孝が、静かに生徒の心を動かしていく良質なドラマです。
今の学校の実情を知るためにも、小説の購読と合わせてNHKオンデマンドで視聴されることをお勧めします。

さいたま市防災アドバイザー 加倉井誠

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