認知症が身近な時代に 家族が「物盗られ妄想」を抱えたら

 今回は「幻覚妄想」について紹介します。
薬物中毒などで幻覚が見えるようになるということは、映画やドラマでも扱われることがありますので、イメージしやすいでしょうか? 
他にも、病気やけがにて脳の機能障害があると、引き起こされることがあります。

 幻覚や妄想は、本人にとっては、真実以外の何物でもないのに、他の人からは認識できないです。
認知機能が落ちると出やすい「物盗られ妄想」を例に説明します。

 認知症が進むと、新しいことを覚えることが難しくなります。
ありがちなのが、財布をどこに置いたのか覚えていられず、探し回るということです。
認知症になっても、そのとき、その場での判断力が損なわれるわけではないので、お財布は大切なもの、失くしてしまってはいけないもということは、充分に分かっておられます。だからこそ、しまい込んでしまう。
でも、その場所を覚えておく記憶力が損なわれているので、覚えられない。
で、覚えられなくなっているということの自覚もあまりないのが特徴ですので「お財布がない!」と気が付くと、探し回ります。
そしてみつからないと、自分の理解できる情報をつなぎ合わせて判断することになるので、私以外の人が、盗んだからなくなったと、思ってしまう。ゆえに、ありがちなのです。

身近にも認知症の人が一人二人は居る時代になりました。
もし、家族が「物盗られ妄想」などのように、自分には理解できないものを見るようになったり、にわかには信じられない突飛な話をするようになったら、どのように対処なさいますか?

 常識的な方の多くが、「そんなことあるはずないじゃない」「疲れているから、すすきが幽霊に見えるようなものよ」など、諭そうとしたり、論破しようとするようです。
でも、それは、見えているものや感じていることが現実である人には逆効果です。
自分がいかに正しいか、強調しようとする気持ちが働いてしまうので、よけいに強く頭に残ってしまうのです。

 妄想や幻覚の話をしている人に会いましたら、こころがけていただきたいのは、共鳴できる現実的な話題に誘導するということです。
テレビから電波が放出されて、私の脳に指令を出していると言われたら、「怖い思いがあると、ぐっすり眠れないのではないですか?」と聞いてみるなどです。
眠れる眠れないというのは、現実の話であり、眠れないとつらいということは、多くの人が共鳴できることですよね? 
テレビから電波、などという妄想の内容そのものに関する話題ではなく、それを話しているその人のつらそうな様子、高揚しているならば、その様子などを話題にすると、現実世界の私とのやりとりで、健全な部分に引き戻してくることができるのです。
くれぐれも「そんなばかなことあるか!」と、全否定などなさいませんように。
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