昔ある人に「頭は帽子掛けではない」と言われたことがあります。生来の注意力散漫な私に、物事を頭を使ってよく考えなさいという注意だったと思いますが、帽子にとってはいい迷惑だったと今考えています。被り物という概念で考えますと、頭に布を巻きつけるターバン風なものから、武具として用いられた兜、主に宮廷で用いられた身分を象徴する鳥帽子もこれに該当します。よく「シャッポを脱ぐ」と参った時に使われる言葉があります。シャッポはフランス語でつばのついたラシャ製の帽子の事で日本では降参した事を表す言葉として「兜を脱ぐ」又は「脱帽した」といわれています。この「被り物」を風俗として捉えて見るとその時代を反映した文化史的な考証ができるように思い、この考えに沿って時代を振り返って見ることにしました。先ず「鳥帽子」について調べてみました。広辞苑によれば「鳥の羽のように黒く塗った帽子で元服した男子が略装につける袋形の被り物」とあり、奈良時代以来、結髪の一般化により庶民の間で用いられるようになり、貴族の間では階級や年齢により形や塗り様を異にしたようです。「亭主の好きな赤鳥帽子」という言葉もありますが、これはふつう、鳥帽子は黒色と決まっていましたので、変わったものが好きという揶揄に使われたものと考えられます。別の意味深長な使い方があったとも思われますが、ご想像にお任せします。次に「笠」という言葉があります。これも雨や雪、日光をさえぎるために頭に被るもので、万葉集に「蓑笠着ずて来る人や誰」とあり、かなり前の時代から帽子の概念は成立していたようです。転じて、頭部を覆っているものをさして使われるようになりました。例をあげると、ランプの笠、きのこ類の笠などに使われています。この笠には色々な種類があり、また、呼び名もその地方や時代により違ってきますので、学術的考証と時系列的変化はご容赦願って、時代小説や歌謡曲に出てくるものを列記してみますと「編み笠」があります。一般的には菅または藁、いぐさで編んだもので、なかには「市女笠」のように竹皮を使ったものもありました。普化宗の有髪の僧の深編み笠である通称・虚無僧笠、陣笠は「鬼平犯科帳」でおなじみの主人公・長谷川平蔵が出役のときにかぶった笠で、薄い鉄板または皮や木でつくり黒漆にぬり金で定紋を入れていました。ちなみに笠の種類および呼び名を列挙してみると、大野笠、江戸笠、托鉢笠(網代笠)、元禄笠、妻折笠、角笠、饅頭笠、三度笠などがあります。時代劇に出てくるやくざの道中姿のときに被っていたのがこのうちの三度笠で、本来は飛脚が被っていたものでした。今でいうポケッタブルな被り物として、布を使ったものに手ぬぐいや風呂敷を用いたものもありました。(後編に続く)
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