路上演奏での出会い〜その①〜 詩人・大野弘紀

電車がホームに入る音。
扉の開く音。出発前の音楽。
歩く人たちの足音。
雑踏が進むに流れるまま、僕は歩いていく。
背中の荷物が隣の人にぶつからないように気をつけながら。
改札を抜けて駅前の陸橋に出ると歌っている人が数人、いた。
ベンチに腰掛けてギターを爪弾く人、マイクスタンドを立てて熱唱する人。
さて、自分はどこでやろうか、と場所を探す。
多くの場所はいらない。
座るくらいあればいい。
一つ離れた通路に出て、ここなら大丈夫そう。
誰も歌ってないし、と背中の荷物と手に持った袋を下ろす。
袋から椅子を出して、背負っていた黒いカバーから円盤状の鉄の塊のようなものを取り出す。
太ももにおいて、指で弾く。
ぽん、と鉄琴のような音が響く。
これは、楽器に見えないけれど、楽器なのだ。
指が触れた数だけ音が鳴る。
音が消えないうちに新しい音を弾き出して、音を旋律へと変えていく。
音階にならない部分を叩くと、かん、と甲高い音を立てる。
中央の部分は一段と低い、ぽん、でも、かん、でもなく、どん、と響く。
弦や木の立てる音ではなく、金属の鳴らす音は水琴のようだと言われる。
仕事をしている自分、友達が知っている自分、いろんな自分がいる。
時々すごく、それが窮屈になる。
誰でもない、自分自身でありたいと、思う。
自分を思い出すために、今日もこうして僕は路上で人知れず演奏する。
ひたすら自由に。
自分を思い出すように。

〜続く〜

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