登り始めの1、2ピッチは順調だった。
仲間の中嶋徹が、わずかな岩の出っ張りだけを頼りに見事なクライミングを見せ、難しい壁を登り切ってくれた。しかし、3ピッチ目で状況は一変した。
20年ほど前に残されたボルトをたどって進んでいると、その先で突然ルートが途切れていた。
次の支点までは約9メートル。
その間に頼れるものは、古びた一本のピトン(岩に差し込む器具)だけだった。恐る恐る体重をかけると、金属がきしむ音が響く。
岩は崩れやすく、かつてあった支点も岩ごと落ちてしまったようだった。
1時間以上も突破口を探したが、安全に進める方法は見つからない。
このままでは遠征そのものが終わってしまう。
仲間に相談し、やむを得ず新たにボルトを1本だけ設置する決断をした。
宙づりの不安定な姿勢でハンマーを振るい、ようやく支点を作ることができた。
そこからは、滑りやすい岩に足を押しつけながら慎重に体を動かし、ようやく岩の割れ目に小さな道具を固定することに成功した。
その瞬間、「これで先へ進める」と胸をなで下ろした。
それでも気の抜けない登りは続き、ようやく安全な場所までたどり着いた。
2日間かけても進めた距離は垂直に約200メートル。
予想以上に厳しいスタートだった。
パタゴニアは天候の変化が激しく、予報もあまり当てにならない。
限られた遠征期間の中で、山頂を目指せるチャンスは残り一度だけ。
失敗の許されない挑戦が、いよいよ始まろうとしていた。
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価格:1980円 |
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